整形外科について
骨粗鬆症性脊椎骨折に対する当院での手術療法
高齢者の脊椎骨折には、痛みを伴わず自然に治癒するものから、激しい腰痛や両下肢の麻痺のために寝たきりになるものまで様々です。そのような重症の骨折に対して、当院では平成19年から積極的に手術を行っています。
脊椎の骨折は、まず受傷時に単純X線像とMRIで重症度を判定します。できるだけ入院していただき、ギプスやコルセットなどで保存的に治療したうえで、寝たきりの恐れのある患者さんには早期に手術を行います。当院で手術を行うのは主に以下の2通りの場合があります。
1. 脊椎破裂骨折の場合 (症例1)
椎体の後壁まで潰れている破裂骨折では、痛くて起き上がれないことも多く、ベッド上で3週間程度安静にしていただきます。痛みが軽快すれば硬性コルセットを装着して歩行していただきますが、激しい腰痛が続き、起き上がれなければ手術を行います。また、経過中に麻痺が出たときは速やかに手術を行います。
2. 椎体壊死を起こした脊椎圧迫骨折の場合 (症例2)
脊椎圧迫骨折後1ヵ月以上経過しても、頑固な腰痛が持続するときは、椎体が壊死を起こしていることがあります。一旦壊死を起こすと、骨癒合には長期間を要するので、日常生活に支障があるときには手術の適応があります。
症例1 脊椎骨折後4ヵ月経過したが頑固な腰痛が残存している70代男性。
歩行中に転倒して第2腰椎を骨折しました。近くの医院へ4ヵ月間通院しましたが、激しい腰痛が持続し、起き上がるのが困難なため当院を受診しました。受診時の腰椎のレントゲン像(図1)では椎体は圧潰していますが、骨癒合しているように見えます。しかし、背中に枕を入れて仰臥位で後屈して撮影すると、椎体内部に空洞が認められました(図2)。MRIでは、椎体後壁の骨片が脊柱管内に突出している破裂骨折でした(図3)。手術では、骨折椎体内部の壊死組織をきれいに掻爬して、内部にリン酸カルシウム骨ペーストを注入しました。また、上下の椎体にもスペースを作成してから骨ペーストを注入し、スクリューで固定しました。これで骨折椎体の上下で強固な固定が完成しました。骨折椎体の上下にも骨ペーストを注入することで隣接椎体の骨折を予防することができます。手術後3ヵ月のレントゲン像(図4)でも固定は良好で腰痛は軽快しました。
症例2.骨折後2年経過しても腰痛のために起立困難な80代女性
単純X線像では第1腰椎の骨癒合は確認できない。また、胸椎に前縦靭帯の広範囲の骨化があるために、骨癒合が困難な症例であることがわかる(図5)MRIでは、第1腰椎椎体内部は低信号であり骨癒合していないのがよくわかる。 それに対して、第2腰椎の骨癒合は良好である(図6) 骨折椎体内部の壊死組織を掻爬して骨ペーストを充填し、さらに上下にスクリューを入れて固定した。スクリュー挿入部にもペーストを注入して固定性を強化している。手術後、2年間続いた腰痛は軽快した(図7)
今までの椎体形成術の問題点
骨折椎体に骨セメントを注入する椎体形成術では、以下のような合併症が危惧されています。
- 骨セメントが血管や脊柱管内に漏れる。
- 骨セメントで硬化した椎体の隣接椎体に新たな骨折が発生する。
- 注入した骨セメントが、不安定になり椎体の前方に逸脱する。
このような合併症を起こさないために当院では、以下のような工夫をしています。
- 骨セメントよりも骨の強度に近いリン酸カルシウム骨ペーストを使用する。
- 骨折椎体内部の壊死組織を十分に掻爬して大きな空洞を作り、ペーストが漏れないように注入する。
- 骨折椎体の上下の椎体内部にもスペースを作り、ペーストを充填させてからスクリューを挿入する。
ペーストが硬化してから、ロッドで締結して固定する。
当院ではこの6年間に、このような手術を100例ほど行っています。そのうち手術前に下肢の麻痺を認めた方は21例でしたが、術後19例はほぼ回復しました。しかし、高度の麻痺があった2例はほとんど改善しませんでした。したがって、骨折後に下肢の麻痺を認める方は、できるだけ早期に受診されることをお勧めします。